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私(杉本迅)がDJをやる理由。

Posted on 2026年6月7日2026年6月7日 by DeepRecommend

音楽は、逃げ道ではない。現在に戻るための技術であり、社会を疑うための武器である。

私は常に未来を考える癖がある。

次に何が起きるか。
この事業はどう伸びるか。
この人はどこで詰まるか。
市場はどこへ向かうか。
そして、最終的に人間はどこへ向かうのか。

幼い頃、私は死ぬことが怖かった。
自分がいつか消えること。
意識が終わること。
今ある世界が、自分にとって二度と戻らないものになること。

その恐怖は、子どもの頃の私にとってかなり大きかった。

私は仏教高校に通っていた。
大乗仏教や禅宗に傾倒した時期もある。
そこで出会った言葉の一つに、禅の「即今 当処 自己」がある。

今。
ここ。
自分。

遠い未来でもなく、過去の後悔でもなく、今この場所にいる自分に立ち返るということだ。

しかし、私にとって「今に集中する」というのは簡単なことではなかった。
頭は常に先へ行く。
未来を計算する。
危機を探す。
勝ち筋を読む。
人の配置を考える。
事業の構造を組み替える。
気づけば、身体はここにあるのに、意識だけが何年も先に飛んでいる。

そんな私に、「今ここにいる」という感覚を身体で教えてくれたのが音楽だった。

音楽は、未来を説明しない。
音楽は、過去を弁解しない。
音楽は、今鳴っている。

キックが鳴る。
ベースが沈む。
ハイハットが刻む。
シンセが空間を裂く。
フロアの身体が反応する。

その瞬間、私はようやく「今」に戻る。

私にとって音楽は娯楽ではない。
精神の補助輪でもない。
現在に帰還するための装置である。

私にとって神は、ジョン・レノンであり、ボブ・ディランであり、エリック・サティであり、ショパンであり、ドビュッシーであり、フランキー・ナックルズであり、ホアン・アトキンスである。

彼らは単に美しい音を作った人間ではない。
世界の見方を変えた人間だ。

ジョン・レノンは、愛と反戦を音楽にした。
ボブ・ディランは、言葉を武器にして時代を撃った。
エリック・サティは、音楽の格式を静かにずらした。
ショパンは、個人の孤独と美を旋律にした。
ドビュッシーは、輪郭の曖昧さを芸術にした。
フランキー・ナックルズは、ハウスミュージックで人々の居場所を作った。
ホアン・アトキンスは、デトロイト・テクノで機械と魂を接続した。

彼らは全員、現実をそのまま受け入れなかった。
正しさを疑い、既存の秩序をずらし、新しい感じ方を提示した。

音楽には、カウンターの役割がある。

社会に対する批判的思考。
常識への違和感。
正しさへの疑念。
現状の再定義。

「それは本当に正しいのか」
「人間は本当にそう生きるべきなのか」
「この空気に従う必要があるのか」
「この秩序は誰にとって都合がいいのか」

音楽は、それを言葉より先に身体へ突きつける。

だから私は、クラブを単なる遊び場だとは思っていない。
女を口説く場所だとも思っていない。
酒に溺れる場所だとも、欲を発散するだけの場所だとも思っていない。

もちろん、そう使う人間もいる。
そう認識する人間もいる。
不純な心がある人間には、クラブは不純な場所に見えるだろう。

しかし、私にとってクラブは、場の空気を読み、人間の反応を観察し、音によって空間を再設計する場所である。

DJは、ただ曲を流す人間ではない。
場の温度を読む。
人の集中を読む。
身体の揺れを読む。
退屈、興奮、期待、疲労、違和感を読む。
そして、その瞬間に必要な音を置く。

これは、経営に近い。

市場を読む。
顧客を読む。
組織を読む。
人の感情を読む。
流れを読み、次の一手を打つ。

私は空気を読むのが得意ではない。
無神経なところがある。
普通の人なら自然に気づくことに、気づけないことがある。
人の感情の細かな変化を、最初から綺麗に理解できる人間ではない。

だからこそ、訓練する。

DJは私にとって、感性の鍛錬である。
人間を知るための実験である。
未来ばかりを考える私が、今この場に戻るための修行である。

もう一つ、現実的な理由がある。
私は結婚した。
だから、収入源を増やす必要がある。

家庭を持つということは、責任が増えるということだ。
責任が増えるなら、収入の柱も増やす。
これは極めて合理的な判断である。

私は小学4年生の頃からビートボックスをしていた。
中学2年生でギターを始め、作曲もした。
高校を中退した後はDTMにも触れた。
妹はピアノが上手かった。
振り返れば、音楽は10年以上、私の近くにあった。

急に始めたわけではない。
流行りに乗ったわけでもない。
自分の身体に残っているものを、今の環境に合わせて収益化する。

得意なこと。
経験があること。
継続してきたこと。
それを市場に出す。

これほど合理的なことはない。

東京には、クラブという発表の場がある。
音が鳴り、人が集まり、空気が変わる場所がある。
そこで人を楽しませることは、軽いことではない。

人を楽しませる。
場を温める。
感情を動かす。
「今日来てよかった」と思ってもらう。

それは明確な価値である。
価値を生むなら、仕事になる。

私はADHDと診断された背景がある。
注意が散りやすい。
誤字脱字も多い。
仕事で細かなミスもする。
これは事実であり、弱点である。

ただし、私は点と点をつなぐことが得意だ。
経済、物理、設計、事業戦略、ロードマップ、人材配置。
別々に見えるものを、一つの構造として捉えることができる。

私は、大枠の方向性を掴む。
足りないピースを見つける。
人の適材適所を考える。
必要であれば、自分自身もパズルの一部として形を変える。

うまくいくなら、役割にこだわらない。
目的に対して、もっとも合理的な形を取る。

しかし、その脳は常に動き続ける。
未来を読む。
構造を読む。
危機を読む。
勝ち筋を読む。
人を読む。
世界を読む。

だから、音楽が必要だ。

ハウス、テクノ、トランスは、私の脳を洗う。
思考の詰まりを流し、情報のノイズを落とし、身体を現在に戻してくれる。

音の反復は、私にとって禅に近い。
キックは呼吸を整え、ベースは身体を地面に戻し、上物の揺らぎは思考の熱を逃がす。

音楽は、私に「即今 当処 自己」を思い出させる。

今。
ここ。
自分。

私は、音楽がなければいけない身体である。
これは比喩ではない。
音楽があるから、私はまた考えられる。
音楽があるから、私はまた作れる。
音楽があるから、私はまた人の前に立てる。

私から音楽を抜けば、仕事に支障をきたす。

それでもいいなら、判断すればいい。

投資家や取締役会が、私がDJをやることを許さないというのであれば、私は役員を辞任しても構わない。

肩書きよりも深いところに、音楽がある。
職業よりも前に、音楽がある。
合理性よりもさらに深いところに、音楽がある。

私は、音楽を捨ててまで経営者を演じるつもりはない。
むしろ、音楽を持ったまま経営者でありたい。

音楽は、私に現在を教える。
音楽は、私に人間を教える。
音楽は、私に社会を疑う力を与える。
音楽は、私に未来を作るための余白を与える。

私は音でフロアを読む。
事業で市場を読む。
人で組織を読む。
批判精神で社会を読む。

だから、私はDJをやる。

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