「Claude Opus 4.6」が示したディープテック経済の転換点
事件は「モデル更新」という顔をして起きた
2026年2月5日、Anthropicは同社最強モデルを刷新し、金融リサーチ能力に特化した「Claude Opus 4.6」を発表した。企業データ、規制当局への提出書類、市場情報を横断的に精査し、人間のアナリストであれば数日を要する財務分析を自動生成できるとされた。
これは単なる性能向上ではない。モデルの“用途”が決定的に変わった。
汎用AIが「金融という専門職ドメイン」に明確に踏み込んだ瞬間だった。
市場の反応は即座だった。発表直後、ファクトセット・リサーチ株は一時10%下落し、S&Pグローバル、ムーディーズ、ナスダックといった金融情報・評価の中核企業が軒並み売られた。
投資家は直感的に理解したのだ。これは一社の新製品ではなく、業界構造そのものへの攻撃だと。
なぜ金融SaaSが最初に撃ち抜かれたのか
金融リサーチは、データ量が多く、論理構造が明確で、成果物の評価基準も比較的形式化されている。
つまりAIにとって、最も「置換しやすい専門職」のひとつだった。
これまで金融SaaSの価値は、
「高品質なデータ」+「人間の分析・解釈」
という組み合わせにあった。しかしClaude Opus 4.6は、その後段を丸ごと飲み込んだ。
データを与えれば、仮説を立て、数値を整理し、文脈を与え、結論を提示する。
それはもはやツールではない。金融アナリストという「役割」そのものだ。
この瞬間、金融SaaSは「情報提供業」へと格下げされた。
価値の中心は、データではなく判断と説明に移ったからだ。
法務から金融へ、次はどこが崩れるのか
重要なのは、これは単発ではないという点だ。
アンソロピックは数日前、法務業務を自動化するAIツールを公開し、法務関連ソフトウェア株を中心に1兆ドル規模の相場急落を引き起こしている。
つまり戦線は明確だ。
法務 → 金融 → 次は医療、ライフサイエンス、サイバーセキュリティ。
実際、アンソロピックの製品責任者は、今後の重点分野としてこれらを明言している。
共通点は一つ。
「高付加価値・専門職・規制産業」であること。
AIは単純作業から奪うのではない。
最も“頭脳労働らしい領域”から奪いに来ている。
OpenAIも同じ地平線にいる
同日、OpenAIもAIコーディングエージェント「Codex」のアップデートを発表した。
注目すべきは、単なるコード生成に留まらず、スライド作成、データ分析、プレゼン支援まで機能を拡張している点だ。
ここに共通する戦略がある。
「職能単位」でAIを再設計しているということだ。
プログラマー、アナリスト、法務担当、研究者。
役割ごとに、思考と作業の流れをAIエージェントとして実装する。
これはSaaSの進化ではない。業務そのものの再実装である。
ディープテック経済から見た本質
この一連の動きが示すのは、「SaaSの終焉」という表層的な話ではない。
本質はもっと深い。
これまで企業価値を支えてきたのは、
・席数課金
・人月換算
・業務効率化
だった。
しかし今後、評価の源泉は変わる。
「どれだけ業務を実行できるか」だ。
分析し、判断し、アウトプットを出す。
その一連をAIが担えるなら、人間は監督者になる。
ツールを売る企業ではなく、業務を完遂するプラットフォームが覇権を握る。
アンソロピックが3,500億ドル、OpenAIが8,300億ドルという評価額で資金調達を協議しているのは偶然ではない。
